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230 拳拳服膺

先日、階段を踏み外し、お尻からダダッと2〜3段転げ落ちました。

お客さんとの打ち合わせのあと6階のエレベーターホールまで見送っていただき、エレベーターに乗ろうとしたところ、タイミング悪くドアが閉まってしまったので、「階段で帰ります!」と元気に答えた20秒後のことでした。

とっさに右手で支えようとしましたが、カバンを持っていたため肘しか使えず、体勢を立て直したときは、右肘の痛みに顔を歪めました。
とはいえ、お尻を強打した感覚はなく、右肘以外に痛みを感じる箇所はありませんでしたので、転げ落ちた割りには軽症で済んだなと感じていました。

ところが、夜になると、肩、首、右の脇腹が痛くなってきました。
転んだ瞬間、あちこちに妙な力が入ったのでしょうか。
しばらくは、寝る体勢を決めるのにも、痛みのために苦労しました。

その4日後、お客さんのゴルフコンペがありました。
プレイに影響がないか、前日素振りをしてみましたが、痛みは感じませんでしたので、安心してコンペに臨みました。

ところが、スタートホールのティーショットで、右脇腹に強烈な痛みが走りました。
コースに行くと力んでしまい、素振りのようにスイングが出来ない、素人ゴルファーの典型です。

どうにか完走できましたが、痛みでうずくまる時もありましたので、一緒にラウンドした方には大変ご迷惑をお掛けしてしまいました・・。
また、スコアがいつもと大して変わらないというのも不思議ではありました・・。

話は変わりますが、若い頃からお世話になっているドクターがいます。
救急医学を専門とする、とても著名な先生です。
元々は父が仕事でお世話になっていましたが、私が30代の頃から「もうオヤジの時代じゃない、セガレをよこせ」と私を使って下さる、ありがたい先生です。
80歳を超えた今も現役でご活躍されており、所属が変わっても報告書の仕事などを私にご用命くださいます。

「オヤジは元気か??」
お目に掛かると先生は必ずこうおっしゃいます。

「はい、90歳を過ぎましたが、電車でほぼ毎日会社に来ております」

「それはスゴイ、100までいくな。転ばないように気をつけてと、伝えてな」

先生から何度となく「転ばないように」という父へのアドバイスをいただきました。
救急医学の権威がおっしゃる「転ぶな」のお言葉は、説得力絶大です。

90過ぎの父が転ばぬようにご心配いただいたにもかかわらず、息子の私が転んでる場合ではありません。
先生のアドバイスを、今後は私も十分注意しなければいけません。

ところで、この先生にまつわる忘れられない思い出があります。

打ち合わせに来ていただきたいのですが・・、と秘書さんから電話があり、早速出向きました。
ひと通り説明を受けたところで、

「忙しいところ悪いが、金曜日の夕方に厚労省の担当者に渡したいんだ。間に合うか?」

金曜日って明後日か??
あちゃ〜・・・・
いくらなんでも無理だな・・・・

心の中でそうつぶやきながら、こう答えました。

「はい、頑張ります!!」

これまで先生からの依頼に首を横に振った記憶がありません。
どんなに無理な依頼であっても、お役に立ちたい! と思わせる不思議な力を持った先生なのです。

特急でデータを作って印刷し、製本所の協力もあおいで、指定の日時に納品に伺いました。

「先生、今回ばかりはなかなか厳しい納期でしたが頑張りました。ちょっとでいいので誉めていただきたいです!笑」

と申し上げると、先生は何かボソボソつぶやきながらお財布を取り出し・・・・、

「これ、お年玉だ」

と、やおら一万円札を机に置きました。

「いやいや、滅相もないことでございます(汗)。口幅ったいことを申し上げてお詫びいたします・・」

「違う違う、まだ1月だし、オレがお年玉をあげるってだめか??」

先生は笑いながらお札を差し出され、結局、私は深々と頭を下げて頂戴いたしました。

その光景をニコニコしながら見つめていた秘書さんにもお礼を申し上げて部屋をあとにすると、遠くから「ありがとう!」という先生の声が聞こえてきました。

社に戻って父に報告すると、「納品した業者がお小遣いをもらうなんて、聞いたことないな、嬉しい話だな」と喜んでいました。

その一万円札は、きちんと2つに折って、ずっと財布に入れています。
私にとって、かけがえのないお守りです。