089 幽明異境

平成28年12月8日。
敬愛する伯父が他界いたしました。
享年99歳でした。

以前にも少し触れましたが、この母方の伯父には随分と目を掛けていただきました。

初めて自転車を買ってくれたのは伯父でした。
将棋で勝つコツも伝授してくれました。
お米ができる過程を解説してくれたりもしました。

田んぼに行った帰り、小学生の私にトラクターのハンドルを握らせてくれました。
激しい振動で思うように操作できず、農道から転落しそうになったのも楽しい思い出です。

大正生まれで何度も戦地へ召集された伯父は、身内にはすこぶる厳格な人でしたが、私には優しい印象ばかりが残っています。

晩年、デイサービス等へお世話になることを嫌がっていた時期があったそうです。
プライドが許さなかったのではないか、と聞いています。

しかし、施設に入所してからは、外泊許可をいただいて自宅へ帰ってきても、
「施設での自分の席がなくなると困る」といって早々に戻っていったそうです。

自宅の方が居心地が良いはずなのに・・。
現在の自分の状況を賢察し、家族に配慮しての行動だったのでしょう。

今年の夏、伯父の住む田舎町では、満足な介護用品が揃わないと聞きました。
そこで、少し早めの白寿のお祝いも兼ねて、介護パジャマを2着贈りました。
日本橋の百貨店で購入し、手紙を添えて送ると、周囲がこう説明してくれたそうです。

「東京のマサミくんからのプレゼントだよ。日本橋のデパートで売ってる一流品だよ。」

すると、伯父は思いも寄らぬことを口にしたそうです。

「マサミくんのお嫁さんが以前働いていたデパートで買ったんだろうね。」

うちのカミさんが、結婚当時に日本橋三越で働いていたことを、いつ話したのか、当の私は全く記憶にありません。
それを、当時98歳の伯父は、ちゃんと覚えてくれていたのです。

お通夜の席でその話を聞き、涙が止まりませんでした。
私は、いくつ歳を重ねても、伯父のような賢人にはなれそうもありません。

子供の頃、私にとって伯父は正にスーパーマンでした。
そして、スーパーマンは、今日、私が贈ったパジャマと共に、天国へ旅立ちました。

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