218 局面打開

大学生のとき、友人と車で伊豆半島一周旅行をしました。
途中、南西端の波勝崎苑猿園に立ち寄り、ニホンザルを見ました。
そして、おとなしく座っていた一匹の猿に近づき、並ぶようにして写真を撮りました。

「サル〜、ありがとね〜」と猿とは反対の方向を見ながら去り際に言うと、突然左のふくらはぎに痛みを感じました。
その猿が歯茎剥き出しで、私の足に噛み付いていたのです。

すぐに猿は逃げていきましたが、ズボン越しに噛まれたふくらはぎには、猿の歯型が残りました。

その夜のこと。
民宿の部屋で足を投げ出してくつろいでいた時、友人がボールペンの先で私の足に残った歯型の真ん中をつついていました。

気配を感じて振り向くと・・、

「感じないの?ヤバっ!」

確かに振り向いたのはつつかれた痛みからではなく、友人のクスクス笑う声に反応したのでした。

猿菌とかあるのかね?
何科に行くんだ?
カルテに「猿に噛まれて受診」って書かれちゃうのか?

茶化しまくる友人たちの言葉が、もはや冗談に聞こえなくなっていました。

東京に戻り、すぐにかかりつけの皮膚科医を訪ねました。

「山田さん、久しぶり。犬に噛まれたんだって?」
「あのー、犬じゃないんです・・」
「犬じゃないの??」
「はい、猿です・・」

いつも優しい斉藤先生は一瞬驚いた表情を見せ、隣りにいた看護師さんは、笑いを堪えているようでした。

結果的に大事には至りませんでしたが、それ以来、猿は私の中で怖い動物ランキングの上位になりました。
日光で猿が観光客から食べ物を奪うニュースが一時頻繁に報道されていましたが、とても私は直視できませんでした。

因みに、アクシデントの起こった波勝崎苑猿園は、昭和32年(1957)にオープンして以来、多くの観光客で賑わっていましたが、来園者が次第に減少し、2019年9月に休園となってしまいました。

https://www.asahi.com/articles/ASM9S5W09M9SUTPB01B.html

しかし、野生のサルの生命保護と近隣の農業被害の防ぐため、伊豆地域で動物園を運営する企業がクラウドファンディングを行うなど、事業の継承に努め、2020年5月7日に「波勝崎モンキーベイ」と名称を変更して復活したそうです。

ここで暮らすニホンザルたちは野生の猿です。
動物園のように檻はありません。
ただ、野生の猿ですが、食べものを人間から貰っているため、人に敵意は示さないと言われています。

私が足を噛まれたことには、何か原因があったのだと思います。
目を合わせてはいませんし、見えるところに食料は持っていませんでした。
でも、猿にとっては、私が善良な味方でなかったことは間違いありません。

私は子供のころからペットを飼ったことがないため、動物一般が比較的苦手です。
上手な扱い方や関わり方が分からないのです。
小学校低学年のころ中型犬に手を噛まれた経験のある私にとって、猿に噛まれたことで益々動物が苦手になってしまいました。

そんな私に、心を許してくれた犬が1匹だけいます。
仕事仲間の製本所で飼われていた真っ白なポメラニアンの「チャオくん」です。

チャオは私が工場に入ると、尻尾を振りながら駆け寄ってお腹を上にしてゴロンと寝転がり、「お腹をさすれ」と要求します。
そして、私がお腹をさすってあげると、極楽な表情を浮かべるのです。
それはそれは私にとって、堪らなく癒やされる時間でした。

子どもが成長して家を出たことで、ペットを飼い始めた友人が複数います。
今後を考えると、ペットに好かれるオッサンを目指すことも重要かも知れません。

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